ハーレム系作品についてちょっとばかり考えてみた

アニメや漫画、美少女ゲームには「ハーレム系」*1と呼ばれる作品群があります。
最近、「異世界の聖機師物語」を視聴し、更に「フォトン」、「デュアル!ぱられルンルン物語」を見直す機会があったことから、ハーレム系作品について少々考察めいたことをしてみようと考えました。*2
なぜこんなことを考えてみようかと思ったのかと言うと、ハーレム系作品はいわゆる男性にとって都合の良い女性像を描いているとか古くから批判されてきたわけですけど、前述の「異世界の聖機師物語」を見ていて、あれ、果たして本当にそうか?と引っかかるところがあったからです。

ハーレム系作品の大体の歴史について

「ハーレム系」と呼ばれる作品は、おそらく源流は「うる星やつら」になるのだと思いますが、基本的なプロットはどれも共通で、一人の男性主人公に複数のヒロインが好意を持ってくれるという構造をしています。
現在は2010年ですから、うる星やつらから数えても既にざっと30年ほども歴史のあるジャンルなのですが、大体流れとしては次のように整理できると思われます。

  1. 勃興期(1970年代末〜1980年代末):登場する女の子の人数は少数。ハーレム系作品としての形が整う前であり三角、ないし多角関係による恋の鞘当てが主題。恋愛作品、ラブコメディと未分化だった時代。メインヒロインに対しサブヒロインが配置されるという形が一般的であった。代表作は「うる星やつら」「らんま1/2」といった高橋留美子作品、「翔んだカップル」、「みゆき」、「優&魅衣」、「ああっ女神さまっ」など。「らんま1/2」は拡大期の特徴を強く持つ。
  2. 拡大期(1990年代初期〜半ば):美少女成人ゲーム、恋愛シミュレーションゲームが作られハーレム系作品の文法が整ってくる。代表作としては「天地無用!魎皇鬼」、「AIが止まらない」をはじめとした赤松健作品、「同級生」ToHeart」「サクラ大戦」などのゲーム、セイバーマリオネットシリーズなどのあかほり作品など。期間を通じヒロインの数は増加傾向となり舞台は主に学校*3となる。これは一つに学校生活の疑似体験を目的としているためであり、またキャラクターの行動をある程度制限することもできるためである。
  3. 完成期(1990年代末以降):作品構造や文法の変化が事実上止まる。「魔法先生ネギま!」「シスタープリンセス」のように、とにかくヒロインの数で勝負という作品と、ヒロインを数名に絞ることでより深く恋愛にコミットする(あるいはストーリーのメインを恋愛以外にすることで恋愛を進展させない)作品に分かれる。後者は勃興期への先祖がえりとも言えるが、勃興期と異なるのは恋愛の発展ではなく関係性の維持に重点を置いた作品が多いこと。「ゼロの使い魔」「涼宮ハルヒシリーズ」は明確に後者、「とある魔術の禁書目録」は前者と共に後者の特徴も持ちます。

ハーレム系作品の矛盾 〜 恋愛が主題ではなくなった

ハーレム系作品は、その系譜を見ても分かる通り、初期においては恋愛をいかに扱うか、そして中期には多くのファンを獲得するために多種多様の女の子を登場させるという要求に沿うため、様々な手法、設定が試された訳ですが、殆ど全ての作品がある限界にぶつかることになりました。そして2000年代以降の変化というのはそれに対する一種の諦め、逃げであったと言えます。
その限界というのはつまるところ、特定のヒロインと関係を深めてしまうと作品内での人間関係が破綻してしまうという問題です。
ハーレム系作品というのは恋愛を主軸に据える限り必ず多角関係型の人間関係となり、主人公が誰かを選ぶ時は物語が終わる時という宿命を持っています。これがゲームであればプレーヤーにゲームをリトライさせ別のヒロインを攻略させることで終りを先延ばしにすることができますけど、それ以外のメディアでは終りをいかに引き延ばすかというのが重要になったわけです。
その結果、大体次のパターンに落ち着きました。

  1. 多くのヒロインに満遍なくコミットすることで特定少数との関係が過度に進展することを防ぐ。
  2. 恋愛を物語の主軸から外す。恋愛以外に解決すべき問題を用意し、それが解決するまでヒロインが脱落しないようにする。

第一の解決では、いつまでも特定の相手を決められない優柔不断な主人公にヒロインが好意を持ってくれる(しかも何人も)というのが一層不自然になってしまいますし、第二では問題解決までモラトリアムが続いているだけでいずれ関係について決着をつけなければならず、ヒロインだってまっとうに考えれば5年10年と待ってくれたりはしないのですから、単なる難題の先送りに過ぎないわけです。

次回に続く。

*1:wikipedia:ハーレムエンドwikipedia:ハーレム系作品

*2:「異世界の聖機師物語公式サイト」wikipedia:フォトン_(OVA))、wikipedia:デュアル!ぱられルンルン物語

*3:キャラクターの年齢的に高校が舞台となるが、成人向けゲームの場合、規制上「学園」「学院」としてぼかされる。