主人公であること、ヒーローであること

id:tyokorataさんの力作エントリを見ていると、自分の書くことなんてないじゃん、なんて思ったりするのですけど、どうにもムズムズと書きたくなってしまったので、たまには駄文を書き散らすことも悪かーないということで、ちょいとばかり書いてみます。
テーマはフィクションにおけるヒーロー論ってことで、なお底本は以下あたりでしょうか。
成長のドラマとヒーローの論理
「ヒーローもの」の形式とその展開
「ヒーローになる」とはどういうことか
和月伸宏『武装錬金』にみる「ヒーローとはなにか」
長谷川裕一の少年漫画道
http://d.hatena.ne.jp/tyokorata/20100624/1277314922
http://d.hatena.ne.jp/tyokorata/20100629/1277787707
http://d.hatena.ne.jp/tyokorata/20100528/1275006407
ゆっくりと書き足していくつもりなので、まあのんびりと。

孫悟空は果たしてヒーローだったのか

正直な話ですけど、個人的にジャンプ系って好きになれなかったんですよね。
週刊少年誌の中では子供の頃から今に至るまで、サンデー系の方が肌に合うというか、サンデー系のなかでも二線級と言える藤田和日郎先生とか椎名高志先生とかゆうきまさみ先生の諸作品が好きなのですけど。
で、私、実のところドラゴンボールという作品は嫌いなんです。なお、ここで言う「嫌い」というのは「性に合わない」「水が合わない」という意味で、「詰まらない」ということではないので念のため。
私は団塊ジュニア世代の一番最後のあたりの生まれで、ちょうど小中学校時代がドラゴンボールの連載と重なったことで、私と同世代の人でドラゴンボールが嫌いという人は余りいないんじゃないでしょうか。最近、ドラゴンボール改としてかつてのドラゴンボールドラゴンボールZ)がリメイク放送されているのも、当時ドラゴンボールに直撃した世代が自分の楽しんだ作品を今の子供たちにも見てもらいたいという思いによってでしょう。
さて、ここで問いたいのは、tyokorataさんのエントリにも関係するのですが、ジャンプ系作品、特にドラゴンボールの主人公である孫悟空の存在が、我々の主人公観、ヒーロー観に大きな影響を、特に悪い意味での影響を与えたのではないか、ということなのです。
tyokorataさんの次のエントリ

先日、GOOが行ったアンケートで、父親にしたいマンガキャラの一位が『ドラゴンボール』の悟空だったという結果が出ました。
ミクシィニュースでもその結果が取り上げられましたが、多くの人が「ニートのバトルマニアが理想の父親?」と疑問を抱いてらしたのが印象的でした。
http://cache001.ranking.goo.ne.jp/crnk/ranking/026/anime_father/
http://d.hatena.ne.jp/tyokorata/20100621/1277082103

から見ても分かるのですが、この手のアンケートの順位はかなり恣意的とまで行かないにしても、深く考えることなく知っているキャラを選択する傾向が強いという点でドラゴンボール孫悟空が1位になったとしても別に不思議は無いのです。ただ、ここまで人々の記憶に印象を残すキャラである孫悟空、実のところ彼は主人公として、特にヒーローとしては最悪の部類のキャラじゃなかろうか、ということなのです。

少年ジャンプが伸びた時代

ジャンプは80年代後半から90年代半ばにかけて黄金期を迎えました。いくぜ500万部、600万部といった煽り文句を覚えている人も多いでしょうが、実は70年代末から80年代の半ばにかけてはサンデーが週刊少年漫画誌の雄であったことを覚えている人はどれくらいいるでしょう?
70年代初頭、アポロ計画成功と大阪万博に象徴される科学主義と公害問題やベトナム戦争、冷戦や核兵器に象徴される人類滅亡の可能性という両面性、これらはSFマンガの形で世に問われることとなりました。その後、70年代全期間をスポ根マンガが興隆することとなりましたが、2度のオイルショックを経て、甲子園を、チャンピオンをとテッペンを目指すスポ根が飽きられたのか、高橋留美子先生による「うる星やつら」を、ラブコメ作家陣を擁したサンデーが一躍興隆を極めたのです。
なお、これは岡田斗司夫氏の「オタク学入門」の受け売りではありますけど、男女の感情の機微を描くには何より作家の力量が重要であり、編集者が介入するとおっぱいをタッチするとかパンチラとか、いわゆるオッサン臭い*1感じになってしまうのだとか。
ですが、作家性に依存する恋愛マンガ、ラブコメマンガは作家が作品を維持できなくなると衰退するという宿命的なものです。もともと恋愛というのは対象年齢が比較的高いということもあり、より子供向けにフォーカスしたジャンプが団塊ジュニア世代の成長と共に伸びたのは必然でもあるでしょう。

ジャンプ系マンガの特殊性(時間がないのでメモ的に)

ジャンプ系マンガは、他の少年誌マンガにはない特殊性を抱えているように思われます。
それを一言で言えば、命の軽視、死んだはずのキャラクターが容易に生き返るということです。
キン肉マンでは超人墓場から正義超人が蘇ってくるという描写がしばしばされますし、魁!男塾では「王大人死亡確認」されたキャラは死んでないというのは常識的でした。聖闘士星矢でも死んだと思ったら仮死状態で生きていたとか冥府に堕ちる前に呼び戻されたなんて話があったと記憶していますし、ジョジョの奇妙な冒険ですら死んだはずのアヴドゥルが生きていたなんてエピソードがありましたし、極めつけはドラゴンボール
これらに共通するのは、総じて生命と死の軽視、でしょう。

*1:当時はマガジンのボインタッチ路線と呼ばれたそうです。