天地無用シリーズから物語を腑分けするNo3

梶島天地の特異性 〜 ヒロインの居場所

梶島版の天地無用という作品は、ねぎし版とも、更に他のハーレム系作品とも明確に異なる点があります。*1
それは、他の作品が基本的にヒロインが主人公の環境に飛び込んできながらも、主人公はヒロインと過ごすために環境を整えるということがないのに対し、梶島天地は天地(と父信幸、祖父勝仁)が積極的にヒロインの居場所を作っているということです。
例えば「とある魔術の禁書目録」では当麻のもとにインデックスが飛び込んできたからといって、ここでは手狭だからもっと広いところに引っ越していつまでも一緒にいようとはならないし、ゼロ魔のルイズと才人も、ネギまのネギと女生徒達も、共に学生寮住まいで同居可能な期間は決まっており、居心地がいいからいつまでもここにいようという訳にはいかない。*2
それに対し梶島天地では、同居人が増え家が手狭になったら父信幸はさっさと仕事場近くにマンションを借りて家を出てしまうし、第7話で美星に家を壊されたあとは全員住んでもまだ余るくらいの大きな家を作ってしまった。そしてヒロインも、阿重霞は個人宇宙船の龍皇に居住スペースを持ち、美星もGPパトロール艦に自室を持っていますが、結局居心地のよい柾木家に住んでいて、鷲羽は普段は研究室に篭りっぱなしですが食事や団欒の際には必ず居間に出てくるのです。
そして天地の極めつけの言葉、第3話で阿重霞に向けて言った「俺の家にいてください、阿重霞さんがいいと思うだけ」の通りに、ヒロイン達は気が済むまで柾木家に住み続けることになったわけです。
これと同等の台詞は私は寡聞にもあと1作品しか知りません。
それは「ああっ女神さまっ」で螢一が言った「君のような女神に、ずっと側にいて欲しい」です。
ですが「女神さま」はヒロインの居場所とは別の深刻な問題を抱える事になりました。

梶島天地の特異性 〜 一見異種婚姻譚、実は同種

主人公のもとに突然女の子が飛び込んでくるというパターンは、民俗学では異種婚姻譚および異人来訪譚の一派生と位置付けられるでしょうが、この両者共に幸せな結末にならないのです。異種はいずれ男のもとを去らねばならず、異人はいずれ迫害され去るか殺される運命、あるいは彼らは男を連れて自分の世界に戻る(=男の死)という形で終わらねばならない。
「女神さま」の問題、それは螢一とベルダンディーが自分達の結末を見出せていないということです。
異種婚姻譚をもとに考えれば、異種であるベルダンディーはいずれ螢一と別れるか、あるいは螢一と共に天界に帰るという選択をせねばならない。
ですが、これらの選択のどれも選べないために、「女神さま」は果てしないグダグダに陥ってしまったのです。
翻って梶島天地ではどうかというと、日本の岡山には700年前から遥照(=勝仁)が生活しその血族が根を張り、彼らは定期的に銀河文明と連絡を取り合い、当初は「うる星やつら」と同様の異種婚姻譚であったはずが実は同種だったというオチがついてしまいました。*3つまり、彼らが岡山の山村に住んでいても全く問題がない、ということなのです。*4
言い方を変えるならば、梶島天地という作品は、膨大な背景設定を投入することで、ハーレム状態の維持と「お祭りはいつか終わる」という宿命の回避を行ったと言えるのです。

*1:長谷川版は梶島版から設定をそっくり持ってきているので、樹雷皇族やギャラクシーポリス、頂神に関連する部分以外はほぼ同じ。

*2:逆に言えば、居場所を作らないということはハーレム状態は常に時限的であるということでもあります。

*3:遥照は最初の妻のアイリと700年前に結婚し現在も続いています。彼女との間に生まれた子供は「水穂」「清音(天地の母の清音)」が確認されています。また、地球に降りてからも時代時代で妻を娶っていることが示唆されており、正木村の住民は遥照の子孫ということです。

*4:なお、この設定は後付けではなく「天地無用!解体真書(1994年5月)」にそれとなく触れられていました。