間違った情報を正すことは誰にもできない(追加)

私が、民主主義の根本の問題のひとつとして考えられると思っていることは、民主主義とは衆愚制の危険性をはらんでいるのではなく、常に何割かの衆愚性を抱えておりそれを正すことは誰にもできないということなんである。
どういうことかというと、たとえばこれだ。

池田信夫 blog : 民主党の意図せざる革命
最大の収穫は、次世代スパコンの凍結である。始まって2年以上たち、建屋もできたプロジェクトを「見直す」という結論が出たことは画期的だ。国内最高速のスパコンが3800万円でできる時代に、それと大差ないマシンに1200億円もの税金を投入することは正当化できない。

スーパーコンピュータと核兵器と私 : 金融日記
※こっちは引用が面倒くさいので引用はしない。
どういうことなのかというと、国家が思想の自由を保障した時点で、どれだけ馬鹿馬鹿しい情報、間違った情報であっても、繰り返し言い続け最後まで主張したほうが勝ちという問題を同時にはらむことになったということなんである。


池田センセイの話の間違いというのは、いわばヒーラー細胞(子宮ガンの細胞であったが、患者本人が死亡した後も培養され続けており、ガン細胞の不死性の象徴となっている)の存在を根拠にヒトの不死を主張するような間違いであると言えばよい例えになると思う。
なお、池田センセイは勝間女史のデフレ脱却提言について「ボーリングの一番ピンは無い」などと言っていながら、科学技術については一番ピンを主張してしまうあたり、どうにも自爆体質としか思えないのだけど。
どういう間違いかというと、次の点から考えてみればわかると思う。

  1. 科学には、あっと驚く新発見や超技術は存在しない。いかなる新技術も、できると思っていたが上手くいかなかった、同じ研究をしていたがちょっと遅れた、というパターンがほとんどである。だからこそ、全く新しい発見はノーベル賞級の発見として扱われるのである。
  2. 得られる成果は原則として投じた金に比例する。セガドリームキャストソニープレイステーション2に性能で大きな差をつけられたのは、開発に投じた資金が段違いであったためである。*1
  3. 汎用性と性能はトレードオフである。同じ世代の技術を使う以上、汎用チップは専用チップに性能で勝つことは絶対にできない。例えば、東京大学GRAPE(グレープ)は重力多体問題を解くための専用機械であり、その計算能力は世界最高のスパコンRoadrunner(ロードランナー)よりもはるかに高いが、Linpackなどのベンチマークは計算できない。*2

(以降、追記)
この話について技術的視点から批判することは幾らでもできるのですが、この話の本質は、たとえ間違った情報であっても、一定の影響力を持つ人物が発信した場合、その間違いは幾ら正そうとする力が働こうと、一定の影響力を持ち続けるということなんです
情報は誰が発信したかという人物性を完全に排除することはできず、特に池田センセイのような熱心な読者層(ファンというか信者というか)を有する人物が発信すれば、それはその層には情報の正誤とは別に正しいこととして受け入れられてしまうということです。
そしてそういう層を持てば自説を拡大再生産できる経路を手に入れることができる。
そういえば、城氏が以下のエントリをあげていました。

政治というコスプレ - Joe's Labo
政治というコスプレ

そういえば以前、別の若手議員がこんことをこぼしていた。
本当は政策的な勉強会や活動をもっとやりたいのだが、地元周りを減らすだけで
「最近、天狗になった」とか「○○さんは真冬でも毎朝7時に駅前に立ってるのに」
なんて地元で言われるのだそうだ。

パフォーマンスの上手さがそのままその人の信頼につながるというのと同じことですね。

*1:ソニーPS2専用チップであるエモーションエンジンとグラフィックシンセサイザーのために専用工場まで建設している。その投資額は数千億円とも言われている。

*2:GRAPEは内部回路自体が重力多体問題の計算に特化した構造であり、それ以外の計算を行わせることはできない為。