主人公であること、ヒーローであること Vol.2

ジャンプ系マンガの特殊性

ジャンプ系マンガというのは、ある特殊性を持っていると思います。
これは、もともとジャンプという少年マンガ雑誌が、マガジンやサンデーといった雑誌に比べ後発でありました。
小学館のサンデーは、日本で最初の週刊少年漫画誌という意気込みのもと、手塚治虫先生をはじめとしたトキワ荘系の有力漫画家を説得することに成功し、その結果同時期に創刊したマガジンを排し当初の成功を修めました。それが現代に至るまで漫画家の作家性重視というサンデーのカラーとなりました。
それに対し、講談社のマガジンは有力漫画家の獲得に失敗し、しかも「神様」手塚治虫口説き落とすことに成功したものの盗作問題によって手塚の逆鱗にふれてしまいます。そこで、1960年代以前から活動している貸本漫画家と編集者・原作者*1というタッグを組むことでサンデーに対抗しようとし、これが現在に至るまでの原作・編集・作画のタッグというマガジンのスタイルとなりました。
これらの二大雑誌に比べ、メジャーでもなければタマも無いという情けない状態から出発した集英社のジャンプは、唯一、新人発掘という点のみで雑誌競争を戦おうとしたのです。*2
その結果、ジャンプはいわゆる悪名高い雑誌内競争主義、いかに有名な、評価の高い漫画家でも人気が出なければ容赦なく10週打ち切りというスタンスを取ることになりました。*3
破天荒はもってこい、とにかく読者の興味を引きつけなければ打ち切られてしまうのですから、ジャンプで雑草のごときバイタリティが培われたのは当然のことでしょう。
さて、ここで何作かのジャンプマンガを挙げます。これらの共通点について指摘できる人はいますか?

作品名 連載期間
キン肉マン 1979年 〜 1987年
魁!男塾 1985年 〜 1991年
ドラゴンボール 1984年 〜 1995年
幽遊白書 1990年 〜 1994年
遊戯王 1996年 〜 2004年
私は2000年代以降のジャンプマンガは殆ど読んでいないので旧作品ばかりになりましたけど、一言で言いますと、これらは全て連載当初は人気が無く、路線変更の結果人気が出た作品であるということなのです。
例えばキン肉マン、殆どの人はキン肉マンとその仲間の正義超人が悪行超人を倒すというイメージを持っているでしょうが、実は単行本の最初の数巻はウルトラマンをパロディにしたようなギャグマンガであり、悪の超人と対決するというのは超人オリンピックが始まってからです。
魁!男塾も、当初は男塾一号生が教官や二号生からのシゴキに耐えたりヤクザとトラブルになったりといったギャグコメディでしたし、ドラゴンボールの初期は純粋な冒険モノ、幽遊白書は霊界の手違いで死んでしまった幽助が生き返るために善行を積むといった人情物語、遊戯王はカードバトルではなくミステリー色の強いストーリーでした。
つまり、整理するとこういうことになります。
作品名 連載期間 序盤の内容 路線変更後の内容
キン肉マン 1979年 〜 1987年 怪獣、怪人と戦うギャグ 超人トーナメント
悪行超人との対決
魁!男塾 1985年 〜 1991年 男塾面々のどたばたコメディ 塾内での格闘バトル
格闘トーナメント
ドラゴンボール 1984年 〜 1995年 ドラゴンボールを探す冒険 天下一武闘会
より強い敵と戦うバトル
幽遊白書 1990年 〜 1994年 幽助が善行を積む人情話 霊界探偵
格闘トーナメント
遊戯王 1996年 〜 2004年 ミステリー風の勧善懲悪 カードバトル

*1:当初は「8マン」や「幻魔大戦」の平井和正等、SF作家が多かったそうです。

*2:岡田斗司夫氏の「オタク学入門」によれば、創刊1号から新人募集をしていたそうです。

*3:どの漫画誌もこの傾向はありますが、ジャンプほど極端ではないということです。