?移行期的混乱?〜分かっているけど出来ない事

以前2回ほどシノドスセミナーに出席した際*1、文藝や社会学や思想系の文化人は往々にして「レジームが変わった」「時代が変わった」という主張をしがちだという話がありました。なお、該当の記事は以下三つ。
シノドスセミナーに参加しました。 - WATERMANの外部記憶
これは若田部先生のセミナー
マスコミはなぜか清算主義が大好き - WATERMANの外部記憶
これは田中先生のセミナー
シノドスセミナー出席しました - WATERMANの外部記憶
これも田中先生
で、過去のセミナーの話を思い出してこの記事を書こうと考えたのは、内田樹先生の次の記事を見たからでした。

移行期的混乱 - 内田樹の研究室
経団連をはじめとする財界が『政府に成長戦略がないのが問題』といい、自民党が『民主党には成長戦略がない』といい、民主党が『わが党の成長戦略』というように口を揃えるが、成長戦略がないことが日本の喫緊の問題かどうかを吟味する発言はない。
『日本には成長戦略がないのが問題』ということに対して、わたしはこう言いたいと思う。
問題なのは、成長戦略がないことではない、成長しなくてもやっていけるための戦略がないことが問題なのだ。」(141頁)
(中略)
私たちに必要なのは、「ダウンサイジングの戦略」であるという平川くんの提言を私も支持する。

正直、こういう記事を見てしまうとついつい(・∀・)ニヤニヤ してしまうんですが、あるいはこっちでしょうか?

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     丶: :ハ、lヽ: :ヽ: : ::\__  `~ "      /: : ト; lヽ)   ゝ
       レ `| `、l`、>=ニ´        ,  _´ : :} `   /
         ,,、r"^~´"''''"t-`r、 _  -、 ´ヽノ \ノ   /    お ・
       ,;'~  _r-- 、__     ~f、_>'、_         |  で  前 ・
      f~  ,;"     ~"t___    ミ、 ^'t         |  は  ん ・
      ,"  ,~         ヾ~'-、__ ミ_ξ丶     |  な  中 ・
     ;'  ,イ ..          ヽ_   ヾ、0ヽ丶    l         /
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     "~、ソ:: :い:: :     \_  ノ ,    ヾ 丶

もちろん「全否定」というのは宜しくありませんので、ちょいと考えてみることにしました。
私がこの手の話を耳にするたびに(・∀・)ニヤニヤ してしまう理由なのですが、定常増減無し、あるいは縮小状態における経済のモデルを見たことがないからなのです。
・・・一休み再開
ここで重要なのは、「利子」というものの性質自体、つまり、なぜ利子*2は非負*3なのかという問いです。
ケインズの一般理論によれば、利子とは流動性を手放すことの対価」とされます。流動性とは何かと言うと、例えば現金*4はそれで何でも買うことが出来ますが、株や社債、あるいは最も信用の高い国債であってもそれでは何も買えません。言い換えるならば流動性とは資産の持つ交換能力、信用力であるとも言え、例えば農産物のような商品では品質の安定が望めなかったり、債券であれば債券の発行主体が失われてしまう(債務不履行、倒産やデフォルト)リスクがあるために、貨幣に比べて十分な交換能力があるとは言えないということ、これが流動性が低いということです。
このように考えた時、なぜ利子は非負なのかという問いの答えが得られます。
つまり、貨幣以上に流動性の高い資産が存在し得ない為に、債券にマイナスの金利がつくとしたら誰も債券を保有しないために利子は正でなくてはならないということです。
ここで経済成長が無い状態や縮小する状態において利子がはらむ矛盾が明らかになります。
利子は正でなくてはならないならば、投資額に対して利子分の増収が無ければ利子を支払うことが出来ません。ところが経済が縮小するということは投資に対する増収予測が得にくい*5…、前期に対し今期、今期に対し来期の売上が減少するとしたら、利子を支払うことを前提に融資を受けて投資することが非合理的となります。
ここで言う投資とは新規事業を興すということだけではありません。次世代の人材を育てることもまた投資なのですが*6、老兵で間に合うからと言って新兵を育てなければ老兵が一線を退いた時、事業の継続が不可能になってしまいます。設備も人も古び磨耗してゆくのを絶えずメンテナンスしなければなりませんが、収益の維持が困難になるということは維持や追加投資が不可能になるということなのです。
ダウンサイジングの経済というのは「全てが均質に」縮小するならば、あるいはありえるのかもしれません。ですが最も脆弱なところから壊死してゆくことになるはずです。地方の衰退や若者世代の就職難はまさにその有様であるのです。

*1:正確にはその後の食事会の際

*2:自然利子率ではない。

*3:マイナスにならないこと。

*4:ここでは限りなく現金に性質の近い預貯金も含むとします。事実、預貯金は1000万円まで保護されますから、ほぼ現金に近い性質を持つと考えてもよいでしょう。

*5:得にくいどころかゼロ、ないしはマイナスということです。

*6:新人が一定の収益を出せるようになるまで、3年とも5年とも呼ばれます。